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老外汉学家的车轱辘话(11)中国的网络谣言和电视剧

2017/09/17

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第11回 中国のネットデマとテレビドラマ

 

  藤井省三(東京大学教授)

 

 最近、中国のネットで私に関するデマ報道を見かけて、大笑いしてしまった。それは“媒格调”という署名の「日本教授が中国人の顔に泥を塗り、アメリカ・アカデミー会員にビンタを張られる」という記事で、「東京帝国大学」の教授で、台湾の陽明大学で中国史の教授もしていた「藤井省三」という者が、シノロジーの国際サミット・シンポ〔汉学国际研讨高峰会议〕で中国古代史や中国のテレビ番組に対するデタラメ発言をしたというのだ。

 

 東大には「藤井省三」教授は私一人しかいないので、この“媒格调”氏は私のこと書いているつもりなのだろうが、藤井の名前を除いて、全篇誤報である。先ずは東京帝国大学が日本の敗戦後に東京大学と改称してから70年が過ぎており、私は台湾の陽明大学で中国史教授を務めたことはないし、そもそもこの大学を訪問したことさえない――陽明山をハイキングしたことはあるけれど。

 

 私は毎年世界各地の現代中国文学国際シンポに参加しているが、「漢学国際研討高峰会議〔汉学国际研讨高峰会议〕」とは寡聞にして耳にしたことがないし、現代文学研究者の私が学術シンポで、邪馬台国の卑弥呼が中国に交流を呼びかけた〔邪马台时期(日本一个古代政权,对应中国魏晋时期),日本就有邀请中国前来交流的记载。〕、とか中国のテレビ番組に出演する日本の芸能人が韓国の芸能人と比べて少ない、とかの研究報告をしたこともない。

 

 “媒格调”氏によれば、この「藤井省三」の「中国人の顔に泥を塗」る研究に対し、アメリカのマサチューセッツ工科大学〔麻省理工〕の中国系の陳剛〔陈刚〕教授が「敏捷な思考、明晰なロジック」で反論したという。私は東大に所属していても、残念ながら理系の教授とはほとんどお付き合いがない。東大には教授・准教授を合わせて2000名以上もいるのだから、仕方のないことだろう。そして外国の工学部の教授とシンポで一緒に討論したことも一度もないのだ。

 

 このデマ記事には私に関する写真が三枚添えられているが、その内二枚は私が数年前に上海作家協会などで講演した時のものを流用しており、一枚の数人が写っている写真には私の影すら見当たらない。そもそも「漢学国際研討高峰会議」なるものの写真も引用されていないし、陳剛教授と私が参加したと称するこの会議の写真もない。要するに“媒格调”氏の記事は100%デタラメなのである。

 

 ところでMassachusetts Institute of Technology(通称MIT)は日本語ではマサチューセッツ工科大学と直訳するが、中国では麻省理工大学とやや意訳をしていることを、今回、初めて知った。同じケンブリッジ市に所在しているハーバード大学の東方言語文化学部(East Asian Languages and Civilizationsthe Department of East Asian Languages and Civilization)を私が訪問することはあっても、工科大学を訪ねることはまずないだろう。その意味では“媒格调”氏のデマ記事でも、少しは勉強になったのである。

 

 そして今回のデマ記事を読んで思ったことは、私ももっと中国のテレビ・ドラマを見るべきだ、ということだ。もちろんドラマに出演する韓国と日本の芸能人の数を数えて、国際学会で発表しようというわけではない。ドラマが中国の現実をある程度反映しており、現代中国人の情念と論理を知るためには、文学や映画と並んで重要だと思うからだ。

 

 ところが、私が見たドラマと言えば2004年放送の沈厳〔沈严〕監督の『中国式離婚』の一作だけなのだ。主演の陳道明〔陈道明〕・蒋〔雨冠+文〕麗〔蒋雯丽〕らの熱演を見ていると、離婚に至る夫婦のすれ違い悲劇だけでなく、中国大都市の医者や小学教員の仕事ぶり、子供の教育、子供とそのお爺ちゃん・お婆ちゃんとの関わり、近所付き合いなども実感することができた。

 

 『中国式離婚』を全篇見た理由は、私の指導留学生が修士論文で同作を取り上げたためであり、論文指導の必要上、VCDを手に入れて、週末を二、三回費やして、食事の時も、皿洗いの時もノート型パソコンで再生し続け、やっとのことで見終えたのだ。鄧小平時代までは共働きが一般的だった中国では、日本と比べて当時の一般の専業主婦は社会的に肩身が狭く、たとえば日本では税制上、配偶者控除が認められているが、中国ではそうではない等々の事情も、院生さんの修論を読んで実感できたことだった。この院生さんは優秀な成績で博士課程に進学したのだが、事情により途中で金融関係の会社に就職してしまった。

 

 その後も院生さんたちには、ドラマ研究の意義を説き続けたのだが、後に続く者は現れず、私も二度とドラマ全篇を見終わることなく、今日に至っている。昨年、特任教授として延べ50日間、中国人民大学に滞在した時も、夕食後に暇があれば『好先生』をひと晩一話ずつ見ていたのだが、結局見終えなかった。なぜだろう?

 

 私が怠惰なことが第一の原因ではあるのだが、中国のドラマが長いことがもう一つの原因である。『中国式離婚』は一回45分で全23回、『好先生』は全42回である。最近私が東京で見た日本のドラマの『定年女子』や『ウチの夫は仕事ができない』は共に全8回、それでも私は二、三回ずつ仕事の都合で見そびれてしまった。

 

 『三国志演義』や『紅楼夢』以来、大長篇を好むのが中国式伝統のようである。私のような“老老外”が中国ドラマを見る最大の効用は、実はこのような長篇伝統を体感することなのかも知れない。それにしても、時間にゆとりができたら、せめて中国ドラマ評論の一本でも書いてみたいものである。

 

著者略歴

1952年生まれ。1982年東京大学大学院人文系研究科博士課程修了、1991年文学博士。1985年桜美林大学文学部助教授、1988年東京大学文学部助教授、1994年同教授、2005~14年日本学術会議会員に就任。専攻は現代中国語圏の文学と映画。主な著書に『中国語圏文学史』、『魯迅と日本文学――漱石・鷗外から清張・春樹まで』、『村上春樹のなかの中国』、『中国映画 百年を描く、百年を読む』など。

 

本文は著者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解を代表するものではありません。

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