老外汉学家的车轱辘话(4)莫言畅谈“The Book of Novels”
2016/12/28
老外漢学家の繰り言(4)莫言が名調子で語る“The Book of Novels”
藤井省三(東京大学教授)
11月に莫言の文学思想を最も良く表した本の日本語訳が、「岡倉天心記念賞翻訳賞」を受賞した。同書は中国国外編の『莫言の思想と文学 世界と語る講演集』と、中国国内編の『莫言の文学とその精神―中国と語る講演集』との上下二巻に分けて、東京の東方書店より去年から今年にかけて刊行されたものである。京都での受賞式には、元首相鳩山友紀夫氏も出席なさり、受賞者と記念撮影を行い、訳者の林敏潔教授が代表として賞を受領した。
もう一人の共訳者である私が、本欄で同書の受賞について書くのは厚かましいことではあるのだが、同書の編者でもある林教授には本欄の翻訳でお世話になっている。何と言っても莫言は現代中国を代表する作家にして、日本で最も著名な現代中国作家であり、同書には大いに読む価値があるので、やはり日中両国の読書人に紹介すべきだろうと思い、敢えてパソコンを打ち始めた次第である。
下巻の巻末には原書にはなかった講演集両巻の人名索引が付されている。これは東方書店出版社の元編集長の朝浩之氏の発案によるもので、実に面白い。映画俳優の高倉健の名前に惹かれて上巻95頁を開くと、2004年12月の北海道大学講演が現れる。初めて北海道を訪問した莫言が、20年以上も前に見た日本映画『君よ憤怒の河を渉れ』〔佐藤純彌監督、1976年〕が描いた北海道の原野のシーンを語り出すのだ。
「私たち男性は、高倉健のように、中野良子のようなロマンティックで冒険心に富んだ女の子を求めておりました。三十年近くが過ぎておりますが、今でも台詞も幾つか覚えております。高倉健が扮する杜岡正人が屋上に立つと、悪人が前に踏み出すよう彼を誘惑し、飛び降り自殺に見せ掛けようと企みます。悪人は言いました。杜岡君、見たまえ。あの青い空を。歩いて行くんだ。君はあの青い空に溶けこむことができる・・・・」
莫言は北海道をめぐって甘味な思い出を語るだけではない。日中戦争期に北海道の炭鉱に強制連行されたのち脱走して十三年の長期にわたり山野に潜伏し続けた同郷の農民劉連仁〔リウ・リエンレン、りゅうれんじん、1913~2000〕に自らインタビューした体験も紹介している。
「私はかつて短篇小説で、また長篇小説でも、彼をモデルとして数人の人物を書きました。私はこれらの小説において主にこの人の頑強な生命力に焦点をしぼりました。そこで、私が思いますに彼を支えて生き延びさせた力とは、故郷および家族への思いなのです。」
北大講演で莫言が語ったこの二つのエピソードは、土着性と国際性とが、そしてリアリズムと想像力とが混淆した個性的な莫言文学の歴史意識を良く物語るものでもあるだろう。
カフカやガルシア・マルケスの名前に惹かれて下巻28頁を開くと、2006年5月の北京魯迅博物館における講演「中国小説の伝統――私の長篇小説三作から語り始める」に連れて行かれる。ここで莫言は作家デビュー当時の読書体験を語っている。
「1980年代・・・・には、大量の西側のモダニズム小説が中国語に翻訳されました――フランスのヌーヴォー・ロマン、ラテンアメリカの魔術的リアリズム、日本の新感覚派小説、さらにカフカや、ジョイス、フォークナー、ヘミングウェイなどです。・・・・「こんなふうに書けると早くに分かっていれば、私はとっくに大作家になれたのに」との思いを抱いたものです。そこで本を放りだして、狂ったように書きました。多くの批評家が、私はラテンアメリカ爆発文学の影響を受けている、特にガルシア・マルケスの例の『百年の孤独』の影響を受けていると考えていますが、これに対し私は包み隠さず白状してきました――確かに彼の影響を受けてはいますが、例の『百年の孤独』は今に至るも読み終えてはいないのです。当時のことを思い出すと、私はこの本の一八頁まで読むと、創作の情熱に突き上げられて、本を放り出し、筆を執って書き始めたのです。」
上巻の訳者あとがきで、「本書は世界文学の中でも最も巧みな語り手による、現代文学の「聴き取り方」をめぐる楽しいレクチャーとも言えよう。」と私は書いたが、莫言の講演は、グローバルにしてローカルな文学交流なのである。
今回受賞した「岡倉天心記念賞」とは、東洋美術界の国際的指導者で、『The Book of Tea』などの英文名著で世界で知られる岡倉天心(1862~1913)を記念するものである。そして授賞して下さった国際アジア共同体学会とは、「東アジア共同体構築の政策を考究し提言」する学会である。莫言講演集の日本語訳者としては、同書が東アジアの、そして世界の読書人の文化交流のための『The Book of Novels』となることを願っている。
その手始めに、東大中文研究室では去る7月に莫言講演集出版記念講演会を開催した。その日に登壇願ったのは、林敏潔さんと莫言小説翻訳家の長堀祐造・慶應義塾大学教授で、それぞれ「日本における莫言」および「私と莫言/翻訳と取材経験から/『変』翻訳を中心に」というお話をして頂いた次第である。この二つの素適な講演に、会場も大いに沸いていた。
著者略歴
1952年生まれ。1982年東京大学大学院人文系研究科博士課程修了、1991年文学博士。1985年桜美林大学文学部助教授、1988年東京大学文学部助教授、1994年同教授、2005~14年日本学術会議会員に就任。専攻は現代中国語圏の文学と映画。主な著書に『中国語圏文学史』、『魯迅と日本文学――漱石・鷗外から清張・春樹まで』、『村上春樹のなかの中国』、『中国映画 百年を描く、百年を読む』など。
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